時を経た建造物から思いが伝わる。
久金属工業株式会社の100年を越える歴史の中で、重要な岐路になるのは当地に社屋、工場を移転させた昭和初期の時代です。
昭和9年から12年にかけて建立された建造物は、戦禍や大きな自然災害と寄せ来る時代の波を乗り越え、
数々の増改築や修復を経て、今もなお当時の面影を残しながら現存しています。
本社事務所棟 外観
建築当時は食堂や工場に使用され、現在は1階、事務所、役員室。2階は応接室会議室などに使用されています。北、東面外壁は2丁掛けタイルで装飾されており、腰は御影石3段積み。凝った意匠の木製窓が昭和初期の雰囲気を醸し出しています。
■昭和12年築 木造寄棟造(一部切妻)・2階建・瓦葺き
本社事務所棟 内部
2階応接室は、木製の大きな窓や腰板、床や天井の造りから昭和の匂いが漂っています。これまでの製品や資料展示の役割を果たしている展示の陳列棚や家具調度品もこの部屋の雰囲気を盛り上げてくれています。いまでも使用されている会議室の漆喰塗りの天井には、当時の照明、天井扇がシンメトリックに並んでいます。
技術室
建築当時は正門横の工場事務所として使用されていました。奥の応接室は凝った作りの格天井に当時の照明器具が残っています。2階には当時の創業者が使用していた和室と従業員の厚生施設としての小部屋があります。1階の元事務所は、製品や機械、治具などの設計や製図を行う技術室として現在も使用されてています。
■昭和9年築 木造入母屋造(一部切妻)・2階建・瓦葺き
旧社長室・品質管理室
旧社長室は外壁を当時流行したスクラッチタイルを横張りに、腰は鉄平石を同じく横張りに飾った表情豊かな外観を保っています。内部には神棚付きのタイムレコーダーが備えられ、当時の従業員の流れが伺われます。南に接した品質管理室は板張りのペンキ仕上げの外観で、連窓には三角板の軒飾りが施されています。高窓の位置から天井のない一室空間の工場であったと推察されます。
■昭和12年築 木造平屋建 切妻 スレート葺
旧第一工場
当時としては、目をみはる大きな建造物であったろう旧第一工場は自然災害を被ることも多く、そのために外壁は波板の鉄板張りなっていたのを令和2年、当初の外壁に近づけて改修を施しました。内部は小屋組み、野地板表しの堂々たる工場空間で、5寸柱を鉄骨で覆い補強するなど、和小屋と洋小屋を組み合わせた特異な建物です。
■昭和9年築 木造平屋建 切妻 波板葺
旧倉庫・守衛室
旧倉庫東外壁も旧第1工場と同じく波鉄板で覆われていたものを、建築当初に近い状態に改修を施しました。南面は下見板、巾木部石張りの上部漆喰仕上げで、当時の面影を濃く残しています。原材料の倉庫として昭和60年代まで機能した内部は木製の荷刷、棚が並び昭和初期の大規模倉庫として稀有な存在と評価されています。旧正門を入った位置に守衛室が残っていますが、これも当時の技術、思い、歴史の刻まれたものとなっています。
■倉庫/昭和12年築 木造一部2階建 切妻 波板葺 ■守衛室/木造平屋建 寄棟 鉄板葺
門柱・旧防空壕
正門の門柱はコンクリートの土台に鋳銅製の格子状の明かり窓を組み合わせたユニークな形状をしています。玄関の築山に埋もれた形で作られた旧防空壕は、社員を守る避難の場として地下もそれなりの広さがあったとされています。名残りとして屋根部分には築山に貫ける擬木仕上げの換気口が残っています。
■門柱/昭和12年築(推定) 立柱 RC造 ■旧防空壕/昭和15年頃築 RC造